けたろうさんのことがそれとなくわかるところ
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今日もGCS手記。
現在 4.88KB。
なんだ、なんも考えずに書いてもけっこう進むじゃないか。
推敲だブラッシュアップだしてないけど、もういっそ冒頭部分だけ公開してみよう。
おら、見れ。
ガールズ・ケーススタディ
Case 1 恋をしたらば
学校近くの繁華街。それは平日の昼下がり、放課後の時間帯にままある光景だった。
「なあシオネエ、ポテト食ってこうよ」
「油摂り過ぎなんじゃないの。お昼もから揚げとラーメンだったじゃん、エルコ」
「顔がツヤツヤになっていいんじゃないの。カサカサだもの。ねえ、ミズキ」
「え、うんと、いや……ていうか、なんであたし……カトリちゃん、ひどいよ」
眉根を寄せて、小さな拳を握り固めて、全身全霊をもって困惑を表現する少女。気弱なミズキにできる最大のシグナルは地下鉄から発信される電波並に頼りなかったが、リーダー格のシオは適切に汲み取った。慣れた様子で澄まし顔のカトリを手柔らかにたしなめる。ここぞとばかりに動き出したエルコは、鼻頭に浮いた油を二本の指でつまみ取り、毒舌家のスカートにこすりつけた。憤りの眼光と同じくらいに思える速度で振り上げられたカトリの手を、シオとエルコがそろって止めた。そんな様子を、ミズキは文字通り胸をなで下ろして眺めていた。
四人の通う高校の最寄り駅から一駅隣。その町の最も混み合う通りには、ファストフード店や喫茶店、ゲームセンターが不規則ながらも隙間なく建ち並んでいる。彼女たちは、とりとめのないおしゃべりに意識のほとんどを傾けながら、あてどなく歩いていた。
定番のカラオケ、ジャンクフード片手に駄弁り、寂しい財力をうらめしがりながらのショッピング。その時になって初めて、何をするかが決まる。設定された目的はいつだって特になく、学校を出たら町に出ることが当たり前だった。それは散歩に出た犬が、なんとはなしに日々同じルートを辿ることと似ているかもしれない。もはや習性だ。
とはいえ、このまま進めばにぎやかな通りが終わる。誰からともなくかしましい歩調は静まり、やや外れにあるベーカリーカフェに落ち着いた。
飲み物とクロワッサンやドーナツを思い思いに注文して、彼女たちは奥まった店の隅に収まった。景気よく揚げパンを頬張るエルコが失笑を買い、エスプレッソを片手に一線を引くカトリがその大人ぶった様をからかわれる。シオは相変わらず仲裁役として一メートル四方の空間を奔走していたし、ミズキは誰の側に付くこともなくうろたえる。
少し経つと、そんな定型のやりとりも型崩れを始める。テーブルの上は教師への不満置き場となり、携帯に撮りためた写真の展覧会となり、好きな音楽の視聴会場となる。どんなにやる気が起きなくたって、話題集めに対する彼女たちの情熱は余暇などたやすく食い散らかしてしまうほどに貪欲だ。
「どうしてあのモデルと俳優別れちゃったんだろう」
「マンションで密会とかめんどくさそう」
「うちのクラスの越谷がヤな女でさあ」
「毎日彼氏自慢欠かさない人でしょ? ありえないよね」
「でもでも、ちょっとうらやましいな。あたしたちみんな……」
プラスとマイナスが入り乱れた絶妙な沈黙。
恋は彼女たちにとって身を切り心を砕き身銭を切りする一大事だったから、時に必要以上のタブー視をされるし、他のすべてを中断してでも没頭させる。それは、クリスマスに飾られるバカラのシャンデリアよりもずっと、目を引くものだった。
今日もここまでは、とてもいつも通りの日常だった。
だからこそ、それは重大な発言だった。
一人が、口を開いて、こんなことを言った。
あたし、好きな人が――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――えっと、いるんだけど……うん。
「は? マジで?!」
店内から視線を集めるほどの声を上げて驚いたのはエルコだったが、シオとカトリも表情は大差なかった。もっとも彼女たちが驚いたのは、突然の告白に対してではなく、ミズキという少女が自ら話題を切り出したことの意外性に対してだった。
憧れに妬みに胸の内を翻弄されながら、結局三人とも、好奇心のあるがままに矢継ぎ早の質問を浴びせた。
「だれ? だれ?」
「いつから?」
この告白をどうして決意したのか、なぜ今日だったのか、今日まで言わなかったのか。まごつくミズキに対するそんな興味と不信感はひとまず言葉にしない。なによりもまずは、情報を欲しいのだった。
「あのね、そんなに前からじゃないよ」
名前を思い浮かべるだけでも赤面しそうな彼女にできる精一杯の第一声がこれだった。
こういう時、デリカシーのなさを抱えて体当たりをできるエルコに期待の目が向く。
「あ、先々週の木曜日だっけ、今日は一緒に帰れないとか言いやがった時だろ?」
赤いフィルムを何度スライドしても覚えられない年号とは裏腹に、見事な正確さで刻まれた違和感の日時を披露してみせる。
すっかり通い慣れた「木曜日」と「彼」とを結ぶシナプスが、電光石火で頬を染め、彼女の瞳をうるませた。ドキリとする一同。罪悪感ではなく一種の恋心によって。
ミズキは、ようやくうなずいた。
もう、言うしかない。だって、いつまでも秘密にはしていられない。
「えっと、えっとね」
カトリまでもが前のめり。ミズキはもう退けなかった。
ため息にも似た決意の呼吸が、一層彼女への集中力を高めた。
「えっと、タガくんが、好きなの」
はい、今日はここまで。続きはまたいつか。
明日は第6回テーブルゲームの会。
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なんだ、なんも考えずに書いてもけっこう進むじゃないか。
推敲だブラッシュアップだしてないけど、もういっそ冒頭部分だけ公開してみよう。
おら、見れ。
ガールズ・ケーススタディ
Case 1 恋をしたらば
学校近くの繁華街。それは平日の昼下がり、放課後の時間帯にままある光景だった。
「なあシオネエ、ポテト食ってこうよ」
「油摂り過ぎなんじゃないの。お昼もから揚げとラーメンだったじゃん、エルコ」
「顔がツヤツヤになっていいんじゃないの。カサカサだもの。ねえ、ミズキ」
「え、うんと、いや……ていうか、なんであたし……カトリちゃん、ひどいよ」
眉根を寄せて、小さな拳を握り固めて、全身全霊をもって困惑を表現する少女。気弱なミズキにできる最大のシグナルは地下鉄から発信される電波並に頼りなかったが、リーダー格のシオは適切に汲み取った。慣れた様子で澄まし顔のカトリを手柔らかにたしなめる。ここぞとばかりに動き出したエルコは、鼻頭に浮いた油を二本の指でつまみ取り、毒舌家のスカートにこすりつけた。憤りの眼光と同じくらいに思える速度で振り上げられたカトリの手を、シオとエルコがそろって止めた。そんな様子を、ミズキは文字通り胸をなで下ろして眺めていた。
四人の通う高校の最寄り駅から一駅隣。その町の最も混み合う通りには、ファストフード店や喫茶店、ゲームセンターが不規則ながらも隙間なく建ち並んでいる。彼女たちは、とりとめのないおしゃべりに意識のほとんどを傾けながら、あてどなく歩いていた。
定番のカラオケ、ジャンクフード片手に駄弁り、寂しい財力をうらめしがりながらのショッピング。その時になって初めて、何をするかが決まる。設定された目的はいつだって特になく、学校を出たら町に出ることが当たり前だった。それは散歩に出た犬が、なんとはなしに日々同じルートを辿ることと似ているかもしれない。もはや習性だ。
とはいえ、このまま進めばにぎやかな通りが終わる。誰からともなくかしましい歩調は静まり、やや外れにあるベーカリーカフェに落ち着いた。
飲み物とクロワッサンやドーナツを思い思いに注文して、彼女たちは奥まった店の隅に収まった。景気よく揚げパンを頬張るエルコが失笑を買い、エスプレッソを片手に一線を引くカトリがその大人ぶった様をからかわれる。シオは相変わらず仲裁役として一メートル四方の空間を奔走していたし、ミズキは誰の側に付くこともなくうろたえる。
少し経つと、そんな定型のやりとりも型崩れを始める。テーブルの上は教師への不満置き場となり、携帯に撮りためた写真の展覧会となり、好きな音楽の視聴会場となる。どんなにやる気が起きなくたって、話題集めに対する彼女たちの情熱は余暇などたやすく食い散らかしてしまうほどに貪欲だ。
「どうしてあのモデルと俳優別れちゃったんだろう」
「マンションで密会とかめんどくさそう」
「うちのクラスの越谷がヤな女でさあ」
「毎日彼氏自慢欠かさない人でしょ? ありえないよね」
「でもでも、ちょっとうらやましいな。あたしたちみんな……」
プラスとマイナスが入り乱れた絶妙な沈黙。
恋は彼女たちにとって身を切り心を砕き身銭を切りする一大事だったから、時に必要以上のタブー視をされるし、他のすべてを中断してでも没頭させる。それは、クリスマスに飾られるバカラのシャンデリアよりもずっと、目を引くものだった。
今日もここまでは、とてもいつも通りの日常だった。
だからこそ、それは重大な発言だった。
一人が、口を開いて、こんなことを言った。
あたし、好きな人が――
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――えっと、いるんだけど……うん。
「は? マジで?!」
店内から視線を集めるほどの声を上げて驚いたのはエルコだったが、シオとカトリも表情は大差なかった。もっとも彼女たちが驚いたのは、突然の告白に対してではなく、ミズキという少女が自ら話題を切り出したことの意外性に対してだった。
憧れに妬みに胸の内を翻弄されながら、結局三人とも、好奇心のあるがままに矢継ぎ早の質問を浴びせた。
「だれ? だれ?」
「いつから?」
この告白をどうして決意したのか、なぜ今日だったのか、今日まで言わなかったのか。まごつくミズキに対するそんな興味と不信感はひとまず言葉にしない。なによりもまずは、情報を欲しいのだった。
「あのね、そんなに前からじゃないよ」
名前を思い浮かべるだけでも赤面しそうな彼女にできる精一杯の第一声がこれだった。
こういう時、デリカシーのなさを抱えて体当たりをできるエルコに期待の目が向く。
「あ、先々週の木曜日だっけ、今日は一緒に帰れないとか言いやがった時だろ?」
赤いフィルムを何度スライドしても覚えられない年号とは裏腹に、見事な正確さで刻まれた違和感の日時を披露してみせる。
すっかり通い慣れた「木曜日」と「彼」とを結ぶシナプスが、電光石火で頬を染め、彼女の瞳をうるませた。ドキリとする一同。罪悪感ではなく一種の恋心によって。
ミズキは、ようやくうなずいた。
もう、言うしかない。だって、いつまでも秘密にはしていられない。
「えっと、えっとね」
カトリまでもが前のめり。ミズキはもう退けなかった。
ため息にも似た決意の呼吸が、一層彼女への集中力を高めた。
「えっと、タガくんが、好きなの」
はい、今日はここまで。続きはまたいつか。
明日は第6回テーブルゲームの会。
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